法律家の守秘義務

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「酒鬼薔薇聖斗」事件の加害者少年の少年審判を担当した井垣康弘裁判官(今は退職して大阪弁護士会所属の弁護士)が,かなり詳しい手記を文藝春秋に出したそうです。
「絶歌」に対する井垣氏の記事 文芸春秋と同氏に抗議文 神戸家裁

これについて,神戸家庭裁判所は

文芸春秋に対し「事件に関する具体的な記述があり、少年審判の信頼を著しく損ない、事件関係者に多大な苦痛を与えかねない」と抗議。井垣弁護士には「退職後も負う守秘義務に反する」と指摘した。

とのことで,これに対して文藝春秋社と井垣弁護士は

 文芸春秋の編集部は「井垣氏の記事は高い公共性を有することから掲載したものです」とコメント。井垣氏は執筆の動機を「男性の人間関係に助けになると思う」とした上で、守秘義務違反について「公になっていることがほとんどで異論がある」とコメントした。

とのことです。

弁護士は,守秘義務を負っています。
ですから,相談者が法律相談でどう言っていたとか,そういうことはたとえ家族にであっても漏らしてはいけませんし,誰から法律相談を受けたとか,今,誰から依頼を受けているとか,そういうことも言ってはいけません。

もし,弁護士が他人に言いふらすかもしれない,と考えたら本当のことなど言えませんし,そもそも相談なんかできません。

裁判官も,同じく守秘義務を負っています。
裁判官は,職業柄,ありとあらゆる証拠を見ることができます。
裁判官は絶対に漏らさないと信頼しているからこそ(しかもその守秘義務が法律上担保されているからこそ),裁判の当事者も我々弁護士も,いろいろな証拠を包み隠さず出せるのです。
そういう信頼があるからこそ,何かトラブルがあったら最終的には裁判所を利用すればいいという司法制度への信頼が成り立っているのです。

しかし,裁判官が,退職後とはいえ,自分が担当した事件の内容を事細かに言いふらすのは,どんな理由があっても許されません。
居酒屋で気が大きくなって言っちゃった,というのは論外ですが,「社会的重大性」とか「高い公共性」とか「男性の人間関係の助けになると思う」とか,そういった理由で,勝手に暴走して発表してしまうのもまた,許されません。

今,進んでいる裁判があったとします。
自分の主張の正当性を裁判所にわかってもらうため,こちらに有利になる証拠は,包み隠さず裁判所には提出したいと考えるのが当然です。
場合によっては,裁判所にだけ見せたいが相手方には見せたくないという証拠もあるかもしれませんが,少なくとも裁判所に対しては,見てもらいたいわけです。

しかし,その裁判官が,将来,裁判所を退職した後,「これは公益性の高い事件だったから」とか「相手方の人間関係の助けになると思うから」といった理由で勝手にその裁判の内容を公開するかもしれないと思ったら,どうでしょう。
包み隠さず証拠を提出したいと思えますか?
そもそも,そんな裁判所を利用したいと思えますか??

この事件は,裁判所の公平性,裁判所への信頼を根底から揺るがす大きな事件だと思います。
もちろん,現在この元裁判官は弁護士とのことですから,弁護士に対する信頼を揺るがす事件でもあります。

司法への信頼を揺るがす危機ですから,我々法律家,特に裁判所,弁護士会の自浄作用が求められていると思います。

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